日本が世界に誇る日本の伝統衣装、着物。織によって描かれたさまざまな模様が美しく、目を奪われた人も多いだろう。着物は、豊かな自然と四季に恵まれた日本人が長年培ってきた文化の一つである。今回は、そんな着物の歴史や魅力について解説する。
着物の歴史
着物の歴史は、弥生時代(紀元前300年〜西暦250年)までさかのぼるとされている。当時の人々は、1枚の布を体に巻きつけただけの「巻布衣(かんぷい)」、布の真ん中に穴を開けて頭を通す「貫頭衣(かんとうい)」と呼ばれるワンピース状の衣装を身にまとっていた。
その後、大陸文化の影響を受けながら、日本独自の服装が形成されていく。平安時代には、現在の着物の原型である「小袖」が誕生。小袖とは、小さい袖口の衣類という意味で、上流貴族が着用していた束帯や十二単といった「大袖」の衣服の下に着る、宮廷装束の下着のような役割を果たしていた。
鎌倉時代(1185年〜1333年)になると、それまで支配階級だった貴族に代わって武家が政治の実権を握るようになったことから、より実用的な小袖が下着ではなく表着として着られるようになり、身分や貧富を問わず広く普及した。
現代着用されているような着物の形が完成したのは、江戸時代(1603年〜1868年)といわれている。町人文化が最盛期を迎え、多彩な着物文化を生み出した。着物に絵画的な模様を染め出す友禅染が生まれたのもこの頃だ。
しかし、明治時代に入ると、開国によって他国の文化が流入してきたことにより、服装様式の欧米化が急速に進む。現代ではすっかり洋装が定着した日本だが、成人式や結婚式などの大切な日に着物を着る風習は根強く残っており、今なおその文化は受け継がれている。
着物の魅力
着物の魅力は、なんといっても色や柄の美しさにある。日本人は、古くから季節の移ろいや自然の美しさを楽しんできた。着物にもそうした和の心を反映させ、四季折々の自然をさまざまに描いている。
洋服だと避けてしまいがちな派手な色や柄の組み合わせも、着物であれば不思議と違和感がなく、すんなりと着こなせる。普段は選ばないような色が意外と似合うことがわかるなど、新たな発見があるかもしれない。
また、着物は伝統工芸品としての一面もあり、長年にわたり継承されてきた職人の技によって生み出されている。同じような織物や染め物でも、産地によって色柄の特徴があり、風合いが異なるのも着物の奥深いところだ。
また、着物は流行り廃りに左右されにくく、手入れさえしていれば長く着ることができる。親から子へ、子から孫へと代々受け継がれている着物は、サスティナブルなファッションといえるだろう。
着物の絵柄で四季を感じよう
もし着物を着る機会があったら、少し季節を意識して、四季折々の装いを楽しんでみてはいかがだろうか。春には桜や藤、牡丹で華やかに、夏は紫陽花やあやめで涼を演出。秋は紅葉や桔梗、冬は椿や水仙、雪景色などがふさわしい。
絵柄選びの基本は、季節を少し先取りすること。実際の季節よりも1ヵ月半〜1ヵ月ほど先取りして、花が咲く直前まで着るのが粋とされている。例えば、桜は3月下旬から4月上旬に咲くので、それまでに着るのがおすすめだ。これは、本物の花と競わないようにするためで、自然への敬意を表している。日本人らしい奥ゆかしい感覚といえるだろう。
なお、図案化された花模様は、一年を通して着用しても構わない。日本の代表的な植物である梅・竹・菊・蘭の4つを組み合わせた模様を「四君子文様」といい、おめでたい柄として季節を問わず楽しめる。
単に見た目が美しいだけでなく、四季をまとう喜びを感じられるのも着物の魅力の一つ。その時々に応じてふさわしい柄はあるが、難しく考える必要はない。季節感を意識しながら、自分の好きな色柄選びを楽しもう。