わずか17文字で表現される俳句は「世界一短い詩」と称されている。うつろいゆく季節を詠んだ句は、日本人の持つ美意識や自然観の集大成といえるだろう。今回は、この短い詩を通じて、日本人の心に触れていく。
俳句とは
俳句とは「五・七・五」の3句17音で構成される日本独自の定型詩を指す。同じく「五・七・五」のリズムで詠むものに「川柳」があるが、俳句には句の中に「季語」を入れるというルールがあり、自然や季節のうつろいを表す。一方、川柳は身近な人間模様や社会を風刺したものが多い。
季語とは「雪」「月」「桜」などの季節を言葉のこと。俳句はわずか17文字という限られた文字数しか使えない。季語を効果的に使うことにより、多くの人が共通して感じる季節のイメージが思い起こされ、読み手に17文字以上の情報を伝えることができる。
五感をフルに活用して自然をいっぱいに感じとる。それが俳句の基本だ。口ずさみやすく、耳に残りやすい俳句は、古くから日本人に親しまれてきた。なかでも優れた句は「名句」と呼ばれ、世代を超えて語り継がれている。
俳句の歴史
俳句は江戸時代に栄えた日本文学の形式「俳諧(はいかい)の発句(ほっく)」を略した言葉と考えられている。俳諧は「こっけい・おどけ」といった意味を持ち、室町時代から江戸時代にかけて盛んにつくられた連歌に使われたものだ。
連歌とは、複数人が集まってリレー形式で一つの歌を完成させる、日本に古くからある詩歌様式の一種である。もともと連歌では上品で優美な表現が使われていたが、次第に本来の道をそれ、こっけいな言葉遊びになっていった。
江戸時代になると、連歌・俳諧の第一句である「発句(五・七・五)」が独立。「奥の細道」の作者として有名な松尾芭蕉らが、それまで遊び的な要素が強かった俳諧に「わび・さび」のエッセンスを加え、その芸術性を高めた。さらに明治に入って「発句」を「俳句」の名称に改め、文学として確立したのが正岡子規だ。今もその形式が継承されている。
やがて俳句は海外にも流出。俳句が世界に広がったのは、イギリス人の日本文学研究者レジナルド・ブライスの功績が大きい。親日家だったブライスは1949年に「俳句Haiku」第一巻を出版して英語圏に俳句を紹介した。現在は約70カ国以上に普及し、各国の言語で俳句がつくられているという。
俳句の魅力
俳句は日本語の美しさが凝縮された17文字の文学だ。短い言葉の中に、季節の移り変わりに対する情緒や心の機微が凝縮されている。今まで気づかなかった自然や季節の変化に気づくことで、人生を豊かに過ごせるようになることが俳句の大きな魅力といえるだろう。
また、俳句は短いために声に出して読み上げやすく、覚えやすいという利点がある。耳に心地よく入ってくるので、日本語の響きやリズムの美しさを味わうのにもってこいだ。ただ鑑賞するだけでなく、気軽につくることもできる。この機会に、自国の言葉で俳句づくりにチャレンジしてみるのもいいだろう。
日本人は古来より、春夏秋冬の季節のうつろいに心を寄せ、自然を愛し、「型」を尊重して暮らしてきた。型を学ぶという価値観は俳句だけに限らず、茶道や華道、武道といった日本の伝統文化に共通するものだ。何度も同じ動きや所作をくり返し、その型を覚えていくことで、先人の伝えようとした心を体得していく、日本独特の美意識といえよう。
短い言葉に読み手の心情や情景が凝縮された俳句。たった17文字だが万の言葉を尽くすよりも雄弁だ。日本人は自然に対する感受性が鋭く、その変化に敏感であるがゆえ、四季折々の風情や美しさを表す言葉がたくさんある。俳句に触れ、俳句を楽しむことで、より深く日本人の心を理解することができるに違いない。