江戸時代から続く伝統工芸「高岡銅器」の産地である富山県高岡市には、原型づくり、鋳造、仕上げ加工、着色、彫金と金属加工のあらゆる技術が集まっている。「モメンタムファクトリー・Orii」もその担い手の一企業として、高岡銅器の着色を手掛けてきた。独自の技法から生まれた神秘的な色合いは、多くの人々を魅了している。
下請け脱却をめざして自社オリジナル商品を開発
高岡銅器は「錆を鑑賞する工芸」ともいわれている。その表情を決定するのは、生まれたての銅の表面に化学反応を起こし、独特の風合いや発色を生み出す「着色」と呼ばれる工程だ。
「モメンタムファクトリー・Orii」の前身である折井着色所は、着色を専門とする工房として1950年に創業。以来、高岡の鋳造技術を受け継ぎながら、仏像や銅像、茶道具、美術品など、さまざまな鋳造品の着色に携わってきた。
1990年代前半のバブル経済期までは高岡銅器産業の中心として栄えたが、その後は急速に売り上げが減少していく。企業存続の危機を救うため、白羽の矢が立ったのが3代目に当たる折井宏司氏だ。
当時、折井氏は東京でIT関係の仕事に就き、やりがいのある日々を送っていたが、悩んだ末に、26歳で高岡に戻り家業を継ぐことに。そこで改めて、売り上げがどんどん落ちていく厳しい現実を突きつけられた。
先代までは問屋からオーダーされた置物や記念品などの着色を主に手掛けていたが、折井氏が帰郷した頃にはそういった仕事は減る一方だった。ライフスタイルの変化により、伝統的な銅器の需要が減少したからだ。
顧客が求めていないものを販売しようとしても売れるはずがない。それなら、自分が欲しいもの、人が欲しいと思える銅製品をつくろうと折井氏はアクションを起こす。
数年にわたり試行錯誤を繰り返した結果、厚さ1mmに満たない銅板に着色を施す独自の技法を編み出した。これにより、日用品やインテリアといった新たな需要を生み出すことに成功する。
2008年に「モメンタムファクトリー・Orii」に社名を変更。モメンタムには「弾み・勢い」という意味がある。400年受け継がれてきた高岡銅器の着色技術を現代のライフスタイルにマッチさせることで、その名のとおり、大きな飛躍に向けて弾みをつけた。東京や海外での展示会を通して、国内外に根強いファンを生んでいる。
Oriiが生み出す世界に一つだけの色
銅をはじめとする金属には、時間の経過とともに大気中の酸素や水分と反応して、酸化する特徴がある。米ぬかや食酢などを使って金属を人為的に腐食させ、さまざまな色を作り出すことが、古くから伝わる高岡銅器の着色技法だ。
Oriiでは、創業以来続けてきた「煮る・焼く・磨く」などの伝統的な技法を受け継ぎながらも、それらを発展させることで、従来は難しいとされていた薄い銅板への発色を実現した。金属素材が持つ本来の色彩を引き出すために、素材や技術を徹底的に研究し、さらなる可能性に挑戦している。
すべて職人の手作業によるもので、色目や模様の出方に一つとして同じものはない。折井氏が最初に生み出した、孔雀の羽を彷彿とさせる複雑な色合いが特徴の「斑紋孔雀色(はんもんくじゃくいろ)」をはじめ、カラーバリエーションは多岐にわたる。
特に人気があるのが「オリイブルー」と呼ばれる美しい青銅色の発色だ。宇宙や海を思わせる神秘的な色合いで、Oriiにしか出せない色と評されている。使っていくうちにいろいろな表情を見せ、色合いの変化を楽しめるのも魅力だ。
組み合わせ次第で無限の可能性
Oriiは独自の着色技法をさらに発展させ、オリジナル商品の企画、ホテルやレストラン、公共施設などで使用される金属部材・美術建材の開発など、さまざまな分野へ進出している。
オリジナルのクラフト作品や壁材などを扱うブランド「tone」を立ち上げると、銅素材を生かしたシンプルなデザインの商品が人気を集め、大きな反響を呼んだ。2017年には装飾用パネル「ORII MARBLE(オリイマーブル)」が、グッドデザイン賞を受賞した。
唯一無二の色合いと、温かみや落ち着きがある銅の質感が組み合わさったマテリアルは、あらゆる空間に馴染みながらも静かに存在感を放ち、暮らしに彩りを与えてくれるだろう。
また最近は、日本のものづくりに取り組む多くの企業と、銅板を埋め込んだスーツやワンピース、バッグ、時計などを共作し、ファッション分野への参入も果たしている。組み合わせ次第でその可能性は無限大だ。
伝統工芸、高岡銅器の最終工程である「着色」の価値を広げるために、果敢に挑戦を続けるOrii。今後も目が離せない存在だ。
1950年創業。高岡銅器の伝統的な着色技法を応用して、独自の発色技術で「着色」の新たな価値を生み出している。唯一無二の発色と質感が多くのファンを獲得、多くのファンを獲得。特に「オリイブルー」と呼ばれる美しい青銅色は人気が高い。
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