江戸時代から続く伝統工芸「江戸切子」。その中で、1971年に創業の「ミツワ硝子工芸」は比較的若い工房だ。創業以来、伝統を大切に受け継ぎながらも、常に新しいものづくりに挑戦して、江戸切子の世界を広げようとしている。
若手職人が活躍する活気あふれる工房
埼玉県草加市に工房を構える「ミツワ硝子工芸」。会長の林恒司氏は江戸切子の美しさに将来性を見出し、勤めていたガラス問屋を退職して、1971年に同社を創業した。機械や道具を取りそろえ、独学で切子の技術を習得したという。現在は、20〜30代の職人が10人ほど在籍し、生き生きとした活気にあふれている。
江戸切子を含め、伝統工芸品の主要工程は、高度な伝統技術による手工業であるため、その習得には長い年月が必要だ。経済産業大臣指定の伝統的工芸品の製造に従事する技術者のうち、高度な技術・技法を保持する者だけが「日本の伝統工芸士」を名乗ることができる。ミツワ硝子工芸には、日本に20名程度しかいない江戸切子の伝統工芸師が3名も在籍しているというから驚きだ。
現在、工房のチーフ職人として若手職人を牽引するのが、日本の伝統工芸師の一人である石塚春樹氏である。江戸切子の文様や輝きに魅せられて、大学卒業後、切子職人の道を選んだ。その作品は繊細でありながら圧倒的な存在感を放つ。江戸切子新作展へ意欲的に出品し、数々の賞を受賞している。
江戸切子の新たな世界を切り開く
ミツワ硝子工芸は、多彩なカット技術、多様な硝子素材を手がける工房として知られている。そのため、ダイヤモンドホイールなどのガラスをカットする道具も幅広く揃えている。希望に応える道具がなければ、自ら開発することも厭わない。新進の気性に富んだ意欲あふれる気鋭の職人集団だ。
ミツワ硝子の工房「彩鳳(さいほう)」では、伝統を受け継ぎながらも、新しいものをつくっていくという意欲にあふれている。伝統的な文様でありながら、そのイメージを一新する大胆かつ繊細なデザインが施されたものが多い。熟練した職人が一つひとつ手作業で丁寧につくり上げている。
例えば市松模様のグラスは、従来のように細かいデザインではなく、グラスを上下に二分して大胆なカッティングを施した。富士と桜という日本を代表する文様では、グラスの奥行きを利用し、富士が刻まれた面を正面に置くと月が富士にかかっているように見え、月を正面に置くと月の中に富士が見えるようにつくられている。富士や月を愛でながら酒を楽しむのもおつなものだ。これらの作品は、伝統の技と若い感性の融合から生まれた新時代の江戸切子といえるだろう。
また、江戸切子というと赤と青のグラスを思い浮かべる人が多いかもしれないが、彩鳳では黒色、紫色、緑色、黄色、桃色など、さまざまな色のバリエーションがあるのが特徴だ。シーンや気分に合わせてグラスを使い分けてみるのもいいだろう。カラフルな江戸切子のグラスは、お酒を飲むひとときを華やかに彩ってくれるにちがいない。自分用のアイテムにはもちろん、大切な人への贈り物にもぴったりだ。
3名の日本の伝統工芸士を擁する江戸切子工房。伝統を踏襲しながらも、これまでの江戸切子にはない新しいデザイン・技法に挑戦。多彩なカット技術、多様な硝子素材を手がけることで知られ、伝統的な文様を若い感性で現代的にアレンジすることを得意とする。
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